詩人・谷川俊太郎さんが11月13日に旅立たれました。

2024/11/20


谷川さんには感謝してもしきれない御恩があります。



谷川さんに、発刊直前の絵本『みえなくなった ちょうこくか』の帯に載せる推薦文を頼んでみようと思い立ったのは2022年初夏のことでした。刷り上がったばかりの絵本のゲラと、立木寛子、三輪途道の著書、同絵本を作るに至った経緯や推薦文寄稿のお願い等を書いた手紙を谷川さんの事務所に図々しく送付しました。

当時の出版母体は、視力を失った彫刻家の三輪を代表とする一般社団法人メノキでした。三輪が、「見えなくなって見えてきたものを社会に還元したい」という思いで立ち上げた一社メノキの中の出版部門としてメノキ書房はスタートしていました(2023年8月株式会社として独立)。この時の唯一の頼りは、一社メノキメンバーで元上毛新聞社出版局の富澤隆夫。彼は同新聞社在職中に谷川さんと仕事をしたことがあったのでした。その縁に賭けました。

ダメで元々、返事が来たら奇跡、と思っていたところ、なんと、数日後に谷川さんから推薦文が送られてきました。

夢のような展開に心が躍りました。

絵本『みえなくなった ちょうこくか』は無事出版され、新聞を中心とするメディアが取り上げてくれたこともあり、上々のスタートを切ることができました。谷川さんが寄せてくださった推薦文の力が大きかったことは言うまでもありません。





一度手をつないだ人の手は絶対離さない、をモットーにしています。

一社メノキから独立した出版社・メノキ書房の第一作は谷川さんと三輪の本と決めていました。

何度かやり取りをしているうち、谷川さんから「三輪さんの作品を見たい」とのお話があったため、三輪の粘土を使ったレリーフ作品の画像と実物一点をお送りしたところ「かべとじめん」というイメージがわきましたと、17の一行詩をくださいました。
順番はどのようにでもしてください、との言葉も添えられていました。

 

この谷川さんの詩に三輪が燃えました。詩から浮かび上がるイメージを次々と作品にしていき、トータルでレリーフ30作品以上を制作しました。その中から17作品を選び、詩とコラボさせ2023年9月『かべとじめん』は完成しました。

 

「タテに見れば壁、ヨコに見れば地面、という単純な発想から生まれた詩画集です。壁と地面の材質感を、触覚的に三輪さんが造形してくれたのでうれしく思います」

谷川さんがあとがきに寄せてくださった言葉です。



―かべがかなしみを ふせいでくれる   ―このかべのむこうで おおぜいがさけんでいるー

 

           

詩画集『かべとじめん』はページをめくるたび、さまざまな景色を見せ、それぞれの世界に連れて行ってくれます。戦場にいる人々の様子に思いを馳せることもありました。そんなときは、常に平和を願う谷川さんの心の底にあるものに触れたような気がします。

読みかえすたび、いつも違った物語が展開していきます。



谷川さん、素敵な詩をありがとうございました。



詩画集が完成した直後に、お礼とご挨拶を兼ねて面会を申し出たのですが、夏場の暑さと新型コロナ感染症がまだ心配される状況であったことからお会いすることが叶わず、「いつの日か」と思っておりましたが、実現する前のお別れとなってしまいましたこと、本当に心残りです。



私も三輪も、出来ることならもう一度谷川さんと一緒に本をつくりたいと思っておりました。もう望みをかなえることはできなくなりましたが、『かべとじめん』は残りました。



谷川さん、本当にありがとうございました。どうぞ、ゆっくり お休みください。



ご縁に感謝しております。





2024年11月19日  メノキ書房㈱ 代表取締役  立木 寛子

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